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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)1694号・平11年(ネ)1693号・平11年(ネ)1692号 判決

主文

一  控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  平成一一年(ネ)第一六九二号事件

1  控訴人松下説夫(以下「控訴人松下」という。)

(一) 原判決主文第六項を取り消す。

(二) 被控訴人井上勝(以下「被控訴人井上」という。)の請求を棄却する。

(三)訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人井上の負担とする。

2  被控訴人井上

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人松下の負担とする。

二  平成一一年(ネ)第一六九三号事件

1  控訴人西古質波(以下「控訴人西古」という。)及び控訴人今里雄(以下「控訴人今里」という。)

(一) 第一事件

(1) 原判決主文第八項中控訴人西古敗訴部分を取り消す。

(2) 第一事件被告である被控訴人ら(ただし、被控訴人西口トメ子、同井出榮子、同西口啓一、同白須和子及び同谷口伸夫については承継前第一審被告西口増夫、被控訴人小林一郎、同小林ちさと及び同小林竹太朗については被控訴人小林一郎及び承継前第一審被告小林史子)が平成八年四月二一日に開催した新千里桜ヶ丘住宅A一〇棟区分所有者集会における新千里桜ヶ丘住宅の建替えに関する件に関し、建替えを可とする決議が無効であることを確認する。

(3) 訴訟費用は、第一、二審とも第一事件被告である被控訴人らの負担とする。

(二) 第二事件

(1) 原判決主文第八項中控訴人今里敗訴部分を取り消す。

(2) 第二事件被告である被控訴人ら(ただし、被控訴人長島徹については、被控訴人長島徹、承継前第一審被告長島トシ子及び同長島済、被控訴人副井萬亀子、同副井望及び同副井協一については、承継前第一審被告副井種臣、被控訴人平賀笑子、同平賀秀峰、同平賀克彦、同平賀優子及び同平賀友和については、承継前第一審被告平賀靖彦)が平成八年四月二一日に開催した新千里桜ヶ丘住宅A三棟区分所有者集会における新千里桜ヶ丘住宅の建替えに関する件に関し、建替えを可とする決議が無効であることを確認する。

(3) 訴訟費用は、第一、二審とも第二事件被告である被控訴人らの負担とする。

(三) 第三事件

(1) 原判決主文第一、二項を取り消す。

(2) 被控訴人井上の請求を棄却する。

(3) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人井上の負担とする。

2  被控訴人ら

(一) 本件各控訴をいずれも棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人西古及び同今里の負担とする。

三  平成一一年(ネ)第一六九四号事件

1  控訴人三宅康平及び同三宅幸子(以下「控訴人三宅ら」という。)

(一) 原判決主文第四、五項を取り消す。

(二) 被控訴人井上の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人井上の負担とする。

2  被控訴人井上

(一) 本件各控訴をいずれも棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人三宅らの負担とする。

第二  事案の概要

一  事案の概要は、次のとおり原判決を補正し、次項以下に当事者双方の当審における補充主張、反論等を付加するほかは、原判決(平成一一年三月三〇日付け更正決定を含む。以下、同じ。)「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄(一六頁一二行目から四七頁九行目まで。ただし、控訴人らと被控訴人ら〔被承継人を含む。〕に関する部分のみ。)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  一七頁三行目の「無効確認を」を「無効確認の」と、一一行目の「建替えに決議」を「建替え決議」と各訂正する。

2  一九頁五行目の次に改行して次のとおり付加する。

「なお、承継前第一事件被告西口増夫は、平成一〇年九月七日死亡し、被控訴人西口トメ子、同井出榮子、同西口啓一、同白須和子及び同谷口伸夫がA一〇棟の区分所有権を、承継前第一事件被告小林史子は、平成九年九月一六日死亡し、被控訴人小林一郎、同小林ちさと及び同小林竹太朗が承継前第一事件被告小林史子所有のA一〇棟の区分所有権の持分権を、承継前第二事件被告副井種臣は、平成一一年五月一二日死亡し、被控訴人副井萬亀子、同副井望及び同副井協一がA三棟の区分所有権を、承継前第二事件被告平賀靖彦は、平成一一年一月一五日死亡し、被控訴人平賀笑子、同平賀秀峰、同平賀克彦、同平賀優子及び同平賀友和がA三棟の区分所有権をそれぞれ相続により取得した。また、亡長島孝一は、第二事件提起前の平成八年三月一五日死亡し、その相続人である被控訴人(第二事件被告)長島徹、承継前第二事件被告長島トシ子及び同長島済がA三棟の区分所有権を相続により取得したとして当事者となったが、その後の遺産分割協議により、被控訴人(第二事件被告)長島徹がA三棟の区分所有権を単独で取得した。」

3  二〇頁初行の「基本計画案から」を「基本計画案として」と訂正する。

4  二七頁九行目の「本件口頭弁論期日」を「当審口頭弁論期日」と訂正する。

5  二八頁九行目の「価格」を「価額」と、一一行目の「昭和五九年改正法」を「昭和五八年改正法(昭和五九年一月一日施行)」と各訂正する。

6  四一頁九行目から一〇行目にかけての「建物としても」を「建物としての」と訂正する。

7  四五頁一二行目の「七条の2」を「七条の二」と訂正する。

8  四七頁五行目の「補助金綱要」を「補助金要綱」と訂正する。

二  控訴人らの当審における補充主張

(控訴人西古及び同今里)

1 実体的要件の欠缺

(一) 老朽の事実の有無について

(1) 法六二条の解釈においては、「費用の過分性」の判断以前に、「老朽」についての該当性が問題となる。すなわち、老朽による建替えについては、社会通念上相当の期間が経過しているか、特別に進行した老朽化があるか、そのどちらかの要件を満たさない場合は、「費用の過分性」を論じるまでもなく、多数決による建替えは許されない。

(2) 各棟建物は、堅固建物としての相当期間の経過も、築約三〇年の建物として特別に進行した老朽化もないから、「老朽」の要件を欠き、法定建替えは許されない。その理由は以下のとおりである。

法六二条の「老朽」の概念が、物理的効用の減退はあるが、社会的効用を維持している状態をいうとしても、建物の躯体の主要部分をはじめ建物の全体について物理的な効用の減退があるか否かを検討する必要性がある。

この点について、原判決は、各棟建物の一部に存在するクラック、ベランダ及び窓庇部分の防水の劣化、鉄筋の露出、コンクリート塊の剥落等の事実等をとらえて、あたかもそれが躯体等の構造的原因によるものの如き誤った認定を行っている。しかし、これらの具体的事実は、いずれも鉄筋コンクリート造りの建物における通常の経年劣化であり、容易に修復が可能なものである。

また、原判決は、給排水管とも相当劣化していることを指摘して、設備関係についても老朽化が進行していると判示するが、給排水管とも二〇年程度で傷みがくるのが通常であり、当然に起こってくることであって、補修も容易である。したがって、建物躯体の老朽化とは全く関係がないから、設備の老朽化から建物躯体の老朽化を推測することはできない。

(3) 以上のように、原判決の認定した事実を前提としても、各棟建物が老朽といえる状態にはない。なお、原判決は、非参加者らが所有するA二棟ないしA四棟、A九棟、A一〇棟の建物(以下「係争建物」という。)以外の本件団地の他の棟の区分所有建物の劣化をも老朽化の有無を認定する資料として使用しているが、法六二条の建替え決議は各区分所有建物毎に行われることになっている以上、建替えに関する実体的要件の有無も本来各区分所有建物毎に判定するべきであり、たとえ本件団地を構成する各区分所有建物が同時期に建設されたとしても、係争建物以外の建物に関する劣化の事実を係争建物の老朽化の認定に使用すべきではない。もっとも、係争建物以外の建物の劣化の程度も、係争建物と大きく異なることはないのであるから、これらの事実を前提としたところで係争建物が老朽化しているということはできない。

(4) 原判決は、築約三〇年を経過した建物としては特別に進行した老朽化までは見られないと判示しながら、鉄筋住宅施設の標準的な経済耐用年数が三五年ないし四〇年、設備のそれを一五年とする研究を引用して、各棟建物の構造体の老朽程度は別としても、対処療法的な補修ではなく、根本的な大規模修繕が必要な時機が到来していると判示する。

しかし、まず右の経済的耐用年数法とされているものの算出根拠の信頼性が低いばかりか、何よりも法六二条の要件論としての「老朽化」を論じるうえにおいては、建物の寿命についても、経済的耐用年数によらず、あくまで建物構造体の物理的耐用年数を基準とすべきである(それは、「老朽」を物理的事由に限るとしたことからも当然である。)。

(5) 法六二条の立法過程を見ても、「老朽」による建替えについては、社会通念上「老朽」とされる相当な期間の経過がなければならないことが明らかである。

すなわち、当初発表された区分所有法改正要綱試案の段階では、法六二条一項の条項は、「建物の建築後堅固な建物にあっては六十年その他の建物にあっては三十年の経過、建物のき損若しくは建物の一部の滅失その他の事情により、建物の価格に比して過分の修繕、復旧若しくは管理の費用を要するに至ったとき、又は付近の土地の利用状況の変化その他の事情により、建物の建替えをすればこれに要する費用に比較して著しくその効用を増すことになるに至ったときは、集会において建物を取り壊してその敷地を新たに建築する区分所有権の目的となる建物の敷地として利用すべき旨の決議をすることができるものとする。」として提案されている。ところが、法制審議会の答申の段階で、効用増のための建替えに多数決原理を導入するということが採用されず、法律案要綱では、客観的要件は前段に絞られた。そして、築後年数経過の建物についての表現は、「建物の建築後相当の期間の経過、建物のき損、建物の一部の滅失その他の事情により、建物の効用を維持するため必要な保存、改良又は復旧をするのに過分の費用を要するに至ったと認められるときは、」と変えられた。

この表現が、法制化の段階で現行法のように、単に「老朽」という言葉に置き換えられたのであるが、この間に、この表現について国会で議論された経緯はない。すなわち、右答申の段階では、建築後六十年ないし三十年という表現が「相当の期間の経過」というやや弾力的な表現に変えられ、これが更に立法段階で「老朽」という言葉に変えられたとしても、基本的には同じ意味として認識されていたのである。つまり、立法過程では、「老朽」というのは、建築後相当期間を経過していることを意味し、その相当期間というのは、堅固建物においては、概ね六〇年程度を一応の目安として理解されていたのである。

もっとも、建物は一律ではなく、その質も損傷の程度も、個々別々であるから、すべての建物において、六〇年程度の期間経過がなければ「老朽」には至っていない等と主張するものではないが、築約三〇年しか経過していない堅固建物である各棟建物につき、「老朽」をもってこれを論じるのは、右立法過程に照らしても、失当である。

(二) 費用の過分性の要件の不存在について

(1) 法六二条の費用の過分性の要件は、区分所有建物(大規模集合住宅)の「老朽化」等の建替えにつき、多くの区分所有者相互の利害が対立して一致した集合的意思形成をすることの困難性を配慮して、手続的要件と並んで設けられた実体的要件である。

したがって、「費用の過分性」等の実体的要件の適用に当たっては、建替えに参加しない区分所有者を区分所有関係から強制的に排除するという制度の趣旨目的に照らして厳格な解釈が要請されることはいうまでもない。ところが、原判決は、右のような立場に立ちながら、「費用の過分性」の判断の前提となる「建物の価額その他の事情に照らして」の「その他の事情」に、いわゆる効用増建替えにつながる「建物の機能の社会的陳腐化」や「社会情勢への対応の程度」等の諸要件を考慮することによって、事実上、「社会的陳腐化」や「社会情勢への対応の程度」に必要な費用をも考慮して「費用の過分性」要件を判断するという誤りを冒している。

法六二条が「費用の過分性」を要件とした趣旨は、いわゆる効用増のための建替えを排除し、相当の範囲内での費用を支出すれば建物の効用を維持回復できる場合には、その費用を投じて建物の使用を継続すべきであり、その範囲を越えて過分の費用を投じなければ建物の効用を全うすることができないようになったときに建替えを認める趣旨である。したがって、「費用の過分性」に関しては、原判決が指摘するように、相対的な概念であるにせよ、右のような法趣旨に照らして解釈運用がなされるべきである。

(2) 被控訴人らが提出した竹中工務店の補修見積書(乙第一八号証、第二九号証。以下、これらをまとめて「竹中工務店の見積書」ということがある。)には、次のような問題点がある。

① 竹中工務店が作成した全面改修工事試算表(乙第一八号証)には、一九九七年から二〇二二年の間の建築関係や設備関係の各項目について工事費用の概算額が列挙されているだけで、右各工事がいかなる内容の工事であり、いかなる仕様に基づいて行われるかという点はもとより、右積算の根拠となる工事数量や工事単価すら示されていない。

② 竹中工務店が作成した新千里桜ヶ丘住宅A三棟改修工事御見積書(乙第二九号証)は、項目欄に示された各工事につき、一応の工事数量や単価が示されているものの、同見積書が現在の各棟建物(A三棟)の劣化を前提とした当面の補修費を積算したという説明にもかかわらず、右建物の劣化診断とこれに対する個々の具体的な補修工事の内容を一切明示せず、建物全体に対する工事費用を概算しているなど、右見積りにかかる補修工事の必要性に関する具体的な根拠が示されていない。

③ 右各見積書(乙第一八号証、第二九号証)には、建物の共用部分のみならず、専有部分の内装や設備に関する補修工事が含まれており、これが右見積価格の相当部分を占めているが、本来、区分所有建物のうち専有部分に属する設備等は、各区分所有者の責任において維持管理されるべきものであり、費用の過分性要件の要素たる「効用の維持回復費用」に専有部分の補修に要する費用を算入すべきではない。のみならず、右各見積書の工事価格(単価)は、実勢価格と著しく遊離しており、いわゆる効用増建替えを前提とした過剰な工事内容となっている。

(3) 右のとおり、竹中工務店の見積書は、信用性が乏しいので、控訴人らは、当審において、マンションの管理、補修工事の設計監理実績が豊富な専門家である藤木良明作成の意見書(甲第三五号証)及び新千里桜ヶ丘住宅A三棟補修・改善工事費実勢算定基準(甲第三四号証)の他、それら算定の根拠となる書面(甲第二二ないし第三四号証)等を提出したが(以下、これらをまとめて「藤木意見書」という。)、右藤木意見書によれば、A三棟の総工事費は、環境改善工事のほか、念のため浴室防水改修工事や給排水管住戸内専有枝管改修工事等の専有部分に関する補修工事を含めても五〇四五万円(一戸当たり一五七万円余)となり、右程度の補修で足りるというべきである。

(4) 法六二条の「建物の価額」について、原判決は、被控訴人らが提出した乙第四二号証に基づいて一戸当たり三〇〇万円と評価している。

ところで、乙第四二号証は、各棟建物の価額を算出するに当たって、不動産の取引価額の評価方法を区分所有建物の価額評価に用いることが困難であるとしたうえで、原価法による積算価額に準じた建物価額の試算方法を採用し、再調達原価から不動産鑑定評価基準に基づく経済的耐用年数を採用して減価修正を行う方法を用いている。

しかし、乙第四二号証は、現実の鑑定実務では、法定耐用年数を基準とする減価方法が一般的に用いられているのに、経済的耐用年数を基準として減価を行っていること、専ら建物の市場価値の評価に用いる鑑定評価基準を採用し、各棟建物の価額に反映されるべき建物の場所的利益や環境といった使用価値が全く反映されていないこと等の問題点がある。

(5) 原判決は、費用の過分性は、当該建物価額その他の事情に照らし、建物の効用維持回復費用が合理的な範囲内にとどまるか否かの相対的な判断であって、一定の絶対的な価額を前提とするものではあり得ないと判示し、各棟建物の建替え計画の相当性、経済的不合理性、建替えによって失われる本件団地周辺の良好な居住環境等は、「建物の価額その他の事情」として考慮されるとの一般論を示しながら、費用の過分性要件の存否に関する具体的判断に際しては、右の要素を判断の対象から捨象している。

他方、原判決は、「老朽化」認定の際には建物の社会的効用増を判断要素とすることを明確に否定しながら、「費用の過分性」要件の判断に当たっては、事実上、経時的な建物の社会経済的利用価値の相対的減少を「その他の事情」としての判断要素とするなど、明らかに矛盾した判断を行っている。

仮に、原判決のような立場に立つとしても、我が国の一世帯当たりの平均的家族数(約2.8人)からいえば、各棟建物の平均的床面積(約五七平方メートル)も決して狭隘とはいえず、また、エレベーターに関しても今後の補修工事において高齢者対応型エレベーターを設置する等の方法により容易に対処できる(現に、建設省は、各棟建物と同型態の中層階段室型住宅に比較的低額で設置可能な高齢者対応のエレベーターを開発し、今年度より公営住宅を中心に順次設置していく計画である。)。

また、仮に、原判決のように、あらゆる事情を「その他の事情」として考慮するのであれば、当然、建替えによって失われる環境等の社会経済的価値も「その他の事情」として考慮しなければならない。

2 団地管理自治会の決議の不存在について

(一) 本件決議は、本件会則七条の二に違反して団地管理自治会の総会の決議を経ていないから無効である。

(二) 本件会則七条の二の規定は、法六二条に違反しない範囲で有効である。すなわち、右規定が一棟の建物の建替えに関して法六二条が定める決議を団地管理自治会の決議に置き換える趣旨であれば、その部分については無効といえるが、建替えに関連して団地共用部分に変更が生じる場合の規定であると解する限りは有効である。

(三) 仮に、本件会則七条の二が存在していなかったとしても、敷地、附属施設が団地共用部分となっている場合には、その変更、処分について団地管理自治会の決議あるいは同意が必要である。

すなわち、法六六条は法一七条(共用部分の変更)、一八条(共用部分の管理)の規定を準用するとともに、「共用部分」という言葉を「土地等並びに第六八条の規定による規約により管理すべきものと定められた同条第一項第一号に掲げる土地及び附属施設並びに同項第二号に掲げる建物の共用部分」と読み替えることを規定している。本件団地においては、本件会則により、敷地、集会室を含む全部の建物が団地管理自治会の管理対象物とされており、これらの「変更」、「管理」については法一七条あるいは法一八条による団地管理自治会の集会決議が必要である。したがって、本件会則七条の二の規定は、当然のことを規定しているに過ぎないと解することもできる。

(四) 本件団地は、敷地が全棟の区分所有者の共有となっており、また、全棟の区分所有者の共有となっている集会室が存在する。

本件建替え計画のように、全棟を解体して、全敷地を利用して従来の建物と全く形態も容積も異なる建物に建て替える場合には、敷地の「変更」であるとして、法一七条の準用により団地管理自治会の集会の特別多数決議が必要であり、この決議を経ていない本件決議は瑕疵ある決議として無効である。

集会室の取壊しについては、区分所有法上何らの規定がない以上、民法の原則に戻って全員の同意が必要であるということになるが、仮に、法一七条の「変更」に該当すると解釈したとしても、少なくとも、団地管理自治会の特別多数決議を経ることが必要である。

(控訴人三宅ら)

1 老朽の事実の有無について

原判決が「老朽」認定の基礎とした事情、すなわち、屋上防水、外壁開口部の構造クラックが各棟建物の各所に及び、更にベランダや窓庇部分の防水の劣化は相当に進み、鉄筋の露出、内部鉄筋の腐食による爆裂によりコンクリート塊が剥落するという事故まで発生していることなどは、専門家の意見によれば容易に補修が利くものである。

原判決は、詳細に不具合箇所を指摘するが、個々の不具合がどのような原因から発生し、それば建物の効用と寿命にどの様な影響を与え、どのような処置によって治癒されるのかということを検討せずに、不具合の存在だけを指摘しても意味はない。老朽の程度の判断には建築学的専門的な観点からの検討が必要不可欠であるのに、原判決はそのような検討をせずに、視覚で捉え得る不具合箇所の存在をもって老朽の結論を導いている。

なお、原判決は、老朽化認定に際し、給排水管の老朽化をも指摘しているが、このような設備関係は、建物よりもずっと耐用年数が短いものであるから、これをもって建物の老朽化の判断材料にすべきではない。

2 費用の過分性の要件の不存在について

(一) 効用維持回復費用について

原判決は、竹中工務店が当面必要な補修費用として見積もった六四五万円が建設物価に比して一割高であり、同一工事内容での小野工建の見積りが五六二万円であることを引き合いに出して、本件団地について一戸当たり五〇〇万円強の補修費が必要と述べる。

しかし、右の判断では、工事見積価格の妥当性の検討はできても、それが補修を要する不具合箇所なのか、補修が必要としてどの程度の工事をすべきなのかについては全く検討できていないことになる。

すなわち、竹中工務店が掲げた工事内容が本当に必要最小限度のものかという点について、非参加者側では、原審において、証人川口憲一及び同人作成の査定書(甲第七号証、第一六号証)を提出したが、その内容は、本件団地のA三棟(三二戸)の補修必要箇所を摘示し、それに必要な補修工事内容を説明し、補修費は計二六六二万五四四〇円(給排水管工事を除く。)、一戸当たり八三万二〇〇〇円程度の負担で給排水管工事を除いて当面必要な補修はできるというものである。しかし、原判決は、竹中工務店が指摘する箇所についての工事の必要性や程度について、非参加者側の反論反証を検討することなく、竹中工務店の見積りを鵜呑みにして、ただ価格の妥当性のみの検討に終始している。さらに、控訴審で提出された藤木意見書によれば、補修工事費全体で一棟当たり二四四五万円余、一戸当たり七六万円余という程度の費用負担で、各棟建物の共用部分全体の補修が利くことが実証されている。

また、原判決は、専有部分の補修費用も法六二条の建物効用維持回復費用に含まれるというが、元来専有部分の維持管理は区分所有者個人の負担に帰せられるべきものであって、当然そこには管理の善し悪しや手入れの頻度によって、補修費の有無、高低等、各区分所有者間に差が出てくるのであるから、これを法六二条の建物効用維持回復費用に含めて考えることはできないというべきである。

(二) 建物価額の判断について

原判決は、建物価額についての乙第四二号証の評価意見書、甲第一八号証の意見書のいずれの鑑定手法も根本的誤りを有するとは考え難いとしながらも、建物価額を七一二万一〇〇〇円とした甲第一八号証を退けて、乙第四二号証を採用し三〇〇万円と認定したが、右両者の間には倍以上の開きがあり、その中間的評価というのも十分成り立ち得る。それにもかかわらず、そのような検討をすることなく、短絡的に乙第四二号証の結論を採るというのは問題である。

また、原判決は、建物の社会的要求水準の上昇(効用増)を所期する費用は効用維持回復費用には含まれないとしながら、「費用の過分性」を判断するうえにおいては、そのような建物の機能の社会的陳腐化をはじめとする社会情勢、生活情勢の変遷への対応の程度を考慮することも許されるとして、建物価額が三〇〇万円であるのに比して、当面必要な補修費用が五〇〇万円以上であり、その費用を投じても回復される機能は建築時である昭和四二年当時の機能水準にとどまるから、各棟建物は、建物価額その他の事情に照らして、効用維持回復に過分の費用を要するに至ったとする。しかし、「費用の過分性」の判断に効用増の観点からする考慮が認められるとすれば、そもそも効用維持回復費用を効用減の回復に絞った意義が失われる。

さらに、原判決のいうように、費用の過分性の判断は、当該建物価額その他の事情に照らし、建物の効用維持回復費用が合理的な範囲内にとどまるか否かの相対的な判断であって、一定の絶対的な価額を前提とするものではあり得ないのであれば、建物価額について前述のような七一二万円が採れないから三〇〇万円とするという論法はそぐわないし、また原判決が全く顧みていない従前の管理費用の低額さ(周辺の約七分の一)や普通の団地なら当然行われているべき補修をしていないことなども、費用が過分であるか否かの相対的判断の消極的要素として当然考慮されるべきである。

(控訴人松下)

1 効用の維持回復費用について

原判決が基本的に採用した乙第二九号証(竹中工務店の見積書)は、不必要な工事、過剰仕様による工事が含まれている。すなわち、乙第二九号証の内部工事として掲げられているもののうち、給排水設備工事や浴室防水工事等は必要費として認めるが(なお、右のような経年劣化に伴いすべての住戸において必要となる補修工事については、専有部分についても補修費の中に含まれることを認める。)、その余の大部分は、原判決が法六二条の費用に含まれないと認める有益費、改良費である。例えば、床フローリング貼り、居間、浴室等の開き戸取替え、押し入れ造作工事、浴槽流し台の取替え等は、今後二〇年ないし三〇年使用していくためにどうしても必要な工事ではなく、個人の経済力と住宅に対する要求水準に委せられるべきものであり、過分性要件の判断対象に含めるべきものではない。また、乙第二九号証の工事価格も実勢価格より高い。

2 建物価額について

原判決は、乙第四二号証を採用し、一戸当たり約三〇〇万円と認定しているが、次に述べるとおり、その認定の根拠は薄弱である。すなわち、①甲第一八号証は、建物の再建価額の積算法が直接観察のみに基づくから確実性に劣るというが、積算根拠が不明確であるのは乙第四二号証も同様である、②乙第四二号証は、建物価額の評価に際し経済的耐用年数なる考え方を用いているが、本件の如く区分所有建物について補修か建替えかを決定するための評価法としては不適当である。

3 費用の過分性について

原判決は、費用が過分であるとは、効用維持の費用が合理的範囲にとどまるか否かの相対的判断であり、建物の機能の社会的陳腐化等も考慮することができると判示するところ、右判示は、その限りでは首肯できる。しかし、原判決は、合理性の範囲とは何かについてそれ以上追求することなく具体的判断を誤り、安易に過分性を認めている。

過分性の判断基準としては、建物の再建価額すなわち建物の元々の価値に比し、建物の存続する全期間においてどの程度まで補修費を投ずるのが適正であるかという視点が必要であり、それは、近隣の同規格団地の管理費からも推論できるというべきである。また、建物の社会的陳腐化という視点をも考慮に入れることは認めるが、それはあくまで社会一般の水準を十分検討したうえでなければならないところ、大阪北摂地域一般の集合住宅の水準を示す丁第五、六号証や、千里ニュータウンにおける公的集合住宅の現況をまとめた丁第一一号証と比較すれば、本件団地がまだ上の部類に属する住宅であることは明瞭である。その他、建替えにより緑豊かな環境が失われ、建築費に相当の出費を強いられること等諸般の事情を考慮すると、費用の過分性の要件は、認められないというべきである。

三  被控訴人らの反論(本項において各控訴人らの主張を引用するときは、特に断らない限り、区別することなく「控訴人らの主張」という。)

1  老朽化の事実の有無について

(一) 原判決が老朽化について認定した事実は、構造的原因による劣化や躯体の老朽化を推認させるに足る懲憑として十分である。また、爆裂や剥落は、他の同時期に建設されたマンションではあり得ないことで、補修に止まらず、抜本的な対策が必要な程度に至っていることは明らかである。なお、控訴人らは、係争建物以外の本件団地の他の棟の区分所有建物の劣化を老朽化有無の認定資料として使用することを非難するが、本件団地内において同時期に建てられた建物は、ほぼ同程度に老朽化しているとみることができるから、理由がない。

(二) 控訴人らは、経年劣化は老朽化には当たらないと主張するようであるが、そうであれば、その論理的帰結として未来永劫建替えの要件を満たさないということになるから、経年劣化についても老朽化の範疇に含まれるというべきである。

(三) 控訴人らは、老朽化を論じるに当たっては建物構造体の物理的耐用年数を基準とすべきであると主張するが、検討対象を建物構造体に限定するのは、法文上の根拠もないし、建物は構造物と設備とが一体として存在することからしても理由がない。

(四) 控訴人らは、立法経過について縷々主張するが、むしろ立法経過からすれば、建築後の期間については問わず、老朽化について実質的に判断をすることになったのではないかと考えられる。

2  費用の過分性の要件の不存在について

(一) 効用維持回復費用について

(1) 竹中工務店作成の工事見積書(乙第二九号証)は、各棟建物を築後六〇年間維持していかなければならないと仮定したときに、いわば折り返し点である約三〇年目を迎えるときに、どれだけの補修工事をすべきであるのかという観点から作成されたものであり、例えば、あと数年で寿命となるような設備等も、各棟建物の残存年数を考えると、折返点である三〇年目時点で取り替えることが適当であると考えられるので、そういうものも見積り中に含めている。また、右見積書においては、区分所有者間の公平という概念も理念の一つとして考えられており、設備の補修や取替えを行うときは、現時点での明らかな不良箇所のみならず、他の同様場所においても近い将来補修や取替えを行うことになる可能性が高いということがいえるので、全ての補修、取替えを行うこととし、公平に補修をすることを前提に見積りをしているのである。

さらに、竹中工務店の見積書の工事単価が高いという指摘に対しては、団地仕様として一般的なものを想定して見積もられており、このことは、小野工建が作成した見積書(甲第六号証)からも明らかである。

(2) 藤木意見書は、現実に行われたマンション改修工事の実績を数値化したものと竹中工務店の見積書との単純比較がそのベースとなっているが、改修実績に関する数字は、法六二条の費用に含まれるべき将来見込まれる支出に関する数字が含まれていないから、藤木意見書のべースとなる実績数値は、元来竹中工務店の見積書の数字と比較されるべき対象とはならないものである。

また、藤木意見書は、竹中工務店の見積書にある専有部分内装工事を除外した理由として、①過分性を検討する補修費に共用部分と専有部分を合わせて算入することの妥当性、②将来必要となる給排水設備の更新などを原状回復費用として算入することの妥当性について疑問を呈しているが、①については、原判決が判示するとおり、共用部分と専有部分を合わせて算入することは、妥当であり、②については、法文を無視した問題点の指摘であり、法六二条における「費用」とは現在の支出額だけでなく将来見込まれる支出も含むとする解釈が一般である。したがって、これらの補修工事を除外している藤木意見書は妥当でない。なお、竹中工務店の見積書では、専有部分に関する補修の見積りは、補修範囲を水回りを中心とする個人対応が困難な必要最小限の補修にとどめている。

(二) 建物価額について

(1) 法定耐用年数とは、固定資産償却等のために課税政策的な見地から定められているものであって、市場性を重視した鑑定評価における基準とは合致しないものであり、控訴人らが主張する現実の鑑定実務において、現在でも法定耐用年数を基準とする減価方法が一般的に用いられているという事実はない。経済的耐用年数による方法こそ、建物全般の鑑定評価に当たって採用すべき原則なのである。

(2) 控訴人三宅らは、甲第一八号証と乙第四二号証の中間的な評価もあり得ると指摘するが、足して二で割ればよいというものではない。

(三) 費用の過分性について

(1) 控訴人松下を除く控訴人らは、原判決が、建物としての機能の陳腐化の内容、程度や、双方が主張する広く建替えの相当性といった問題は、建物の価額その他の事情として、費用の過分性判断において考慮すべき事情であると判示したことは不当であると主張するが、法六二条の「その他の事情」には何ら文言上の限定はないし、解釈上も「その他の事情」とは、建物の利用上の不都合、その他建物の現状、土地の利用に関する周囲の状況、建物の用途、目的等過分の費用を要するに至ったか否かの判断に影響を及ぼす建物の価額以外の諸事情を指すと解されているから、原判決が右事情を考慮したことは、これらの規定や解釈に沿ったものであり、妥当である。

また、同控訴人らは、原判決が右のような事情を考慮したことにより、効用増建替えを認めたに等しいと主張するが、原判決は、右事情を過分性を判断する一事情として考慮したものに過ぎず、効用増建替えを認めたものではない。

(2) 控訴人らは、本件団地における管理費が低額であり、なすべき補修をしていないこと(これについては誤解があるが)について、費用が過分であるか否かの相対的判断の消極的要素として考慮されるべきであると主張するが、法六二条の解釈論として無理なものであるし、この考え方によれば、費用をかけず、補修もせず、建物が老朽化すればするほど建替えを行い難くなるということになり、現実的でない。

(3) 控訴人らの主張する良好な居住環境等が法六二条の「その他の事情」に含まれるという解釈は、文理的にも無理な解釈である。

(4) 控訴人松下の主張する費用の過分性の判断基準は、失当である。

3  団地管理自治会の決議の不存在について

控訴人らの主張は、控訴理由の中で述べられていなかったものであり、控訴審において主張できるものではない。また、仮にそうでないとしても、控訴審終結間際において、このような主張を行うことは時期に後れた主張であり、認められない。

控訴人らは、団地管理自治会の総会の決議を経ていないから建替え決議は無効であると主張するが、各棟建物において可決されているのであるから、仮に、団地管理自治会総会の議決を行ったとしても、可決の結論が出るであろうことは自明のことであり、控訴人らの主張は意味のないものである。さらに、控訴人らは、集会室の取壊しを問題にしているようであるが、建替え決議の際に、建替え計画が示されており、集会室の取壊しは当然の前提として織り込み済みとして可決されている。

第三  証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人西古及び同今里の第一事件被告及び第二事件被告である被控訴人らに対する法六二条の建替え決議の無効確認請求は、いずれも理由がなく棄却すべきものであり、被控訴人井上の控訴人らに対する法六三条の売渡請求に基づく売買代金と引換えにする区分所有建物の所有権移転登記手続及び明渡し請求は理由があるから認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決「事実及び理由」の「第四 争点に対する判断」欄(四七頁一一行目から九九頁一二行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。なお、当審における控訴人らの主張は、各控訴人の主張を自己の主張と抵触しない限り有利に援用する趣旨であると解されるから、これを引用するときは、特に断らない限り、便宜区別しないで控訴人らの主張という。

1  四七頁一一行目の「第七号証、」の次に「第一〇号証、」を付加し、一二行目の「第二七号証ないし第五六号証」を「第二七号証ないし第四三号証、第四五号証ないし第五六号証」と訂正し、四八頁二行目の「第一三号証」の次に「(以上の証拠については、枝番を含む。)」を、五行目「認められる」の次に「(なお、併合前の第二事件の書証として特定しているもの以外の書証は、併合前の第一事件並びに第二事件及び第三事件併合後の書証である。以下、同じ。)」を各付加する。

2  五二頁五行目の「二三一万〇四八〇円」を「二三一万八五〇〇円」と、末行の「一九七万九四六二円」を「一一二万〇一六七円」と各訂正する。

3  五五頁五行目の「三月」を「一月」と、六行目の「九二パーセント」を「87.5パーセント」と、五七頁五行目の「建替え決議の」を「建替え決議に」と各訂正する。

4  五九頁九行目の「修理跡」の前に「ベランダの」を付加し、同行の「二〇四号室には」を「二〇四号室のベランダの」と訂正し、一一行目の「三〇八号室等」の次に「のベランダ」を付加し、一二行目の「三〇三号室」を「三〇五号室」と訂正し、末行から六〇頁初行にかけての「一〇八号室等」の次に「のベランダや窓庇」を付加する。

5  六三頁末行の「(同)」を削除し、六四頁三行目の「二〇六号室」を「二〇八号室」と訂正する。

6  六五頁一〇行目の「四〇七、三〇八号室」を「四〇七号室」と訂正し、末行の「三〇八号室」の次に「の屋上庇裏」を付加し、六六頁初行の「自体」を「事態」と訂正し、五行目の「四〇七号室」の次に「のベランダ」を、末行の「四〇三号」の次に「室ベランダ」を各付加する。

7  六七頁八行目の「二〇三号室」から九行目末尾までを削除し、末行の「東側壁面」を「西側壁面」と訂正し、六八頁六行目の「二〇八号」の次に「室」を、七行目の「一〇一号室」の次に「のベランダ排水管付近」を、一一行目の、「三〇六号」の次に「室の」を、七〇頁六行目の「四〇一号」の次に「室」を各付加する。

8  七三頁四行目の「床上」を「床下」と、九行目の「五月」を「四月」と各訂正し、七五頁末行の「一〇八号室」の前に「A二棟」を付加し、七六頁六行目の「三〇七、」を、一一行目及び一二行目を各削除する。

9  七八頁末行の「五月ころ」を「七月ころ」と、七九頁三行目の「入水層」を「受水槽」と、一〇行目の「六月三日」を「九月二四日」と各訂正し、八〇頁初行の「六四五万」の次に「円」を付加する。

10  八四頁初行の「推測できる」の次に「(控訴人らは、法六二条の建替え決議は各区分所有建物毎に行われることになっている以上、建替えに関する実体的要件の有無も本来各区分所有建物毎に判定するべきであり、たとえ本件団地を構成する各区分所有建物が同時期に建設されたとしても、係争建物以外の建物に関する劣化の事実を係争建物の老朽化の認定に使用すべきではないと主張するが、右に述べたとおり、各棟建物は、同一の時期、設計、品等により建築され、本件団地の管理組合自治会により統一して管理されてきたのであり、各棟建物間の劣化の進行状況、程度等に異同を生じさせるような事由の主張、立証もないから、右劣化の進行状況、程度等は、ほぼ同様の水準にあるとみて差し支えないというべきである。)」を付加する。

11  八六頁五行目から六行目にかけての「学者もあるが」の次に「右は、一般論であって、老朽化は、建物毎に判断すべきものであるうえ、」を付加し、一一行目末尾の次に次のとおり付加する。

「なお、控訴人らは、乙第一〇〇号証は、不動産鑑定に関する評価基準を解説する書籍であって、マンション等の区分所有建物の実際的な建物としての耐用年数の調査研究結果を報告したり、記載したものではないと主張するが、乙第一〇〇号証(三二八頁及び三二九頁)には、日本建築学会経済委員会耐用年数研究会等作成の文献が参考文献として掲げられており、これを基にした記述であると認められるから、控訴人らの指摘は、必ずしも当を得たものではない。

控訴人らは、老朽による建替えについては、社会通念上相当の期間が経過しているか、特別に進行した老朽化があるか、そのどちらかの要件を満たさない場合は、『費用の過分性』を論じるまでもなく、多数決による建替えは許されないとしたうえで、建物の寿命については、経済的耐用年数によらず建物構造体の物理的耐用年数を基準とすべきであるところ、各棟建物は、築後約三〇年しか経過していないから右基準に達しておらず、また、各棟建物にみられる劣化現象は、構造躯体に影響を及ぼさない程度の経年劣化であり、容易に補修が可能であるから、各棟建物は、堅固建物としての相当期間の経過も、築約三〇年の建物として特別に進行した老朽化もないので、『老朽』の要件を欠き、法定建替えは許されないと主張する。

そこで検討するに、法六二条による建替え決議をするための実体的要件としては、『建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至った』ことが必要であり、老朽は、その原因として例示されているものである。したがって、右実体的要件として、まず老朽により建物としての効用が損なわれることが認められる必要があるが、老朽とは、原判決の判示するとおり、建築後の年月の経過による建物としての物理的効用の減退を指すと解するのが相当である。そして、前記認定の各棟建物の状況(原判決五七頁八行目から七六頁末行まで)をみると、原判決も説示するとおり(原判決八四頁三行目から末行まで)、各棟建物は、外壁や内壁にクラックが生じている箇所があること、ベランダの塗装剥離、鉄筋の露出や錆汁の流失している箇所が多数あること、屋上の防水層にも劣化が認められること、給排水管に腐食が進行していること等が認められ、これらの劣化により、屋上、窓庇、ベランダ部分等からのコンクリート片の剥落、雨漏りや漏水事故が発生していることからすれば、築後約三〇年という年月の経過により、建物として社会通念上要求される一定の性能が損なわれていることは明らかというべきである。

控訴人らは、前記のとおり主張するが、老朽により建物としての効用が損なわれることを判断するに当たって、必ずしも物理的耐用年数を基準としなければならない理由はないし、建物としての効用が損なわれたかどうかは、建物の躯体部分だけでなく設備等を含めた全体としてみるべきであるから、仮に、劣化の程度が構造躯体に影響を及ぼさない程度のものであったとしても、建物としての効用が損なわれているとみるべき場合があり得るというべきであり、控訴人ら主張の容易に補修が可能であるかどうかといったような点は、むしろ、主として建物としての効用を維持し、又は回復するのに要する費用が、過分かどうかを判断する際の事情として考慮することになるものと解される。また、控訴人らは、控訴人らが主張する立法過程からも、築後約三〇年では建築後相当期間を経過しているとはいえず、老朽には至っていないと主張するが、控訴人らも認めるように、建物の品等、管理の状況、場所的環境等により老朽化の進展の度合いは建物毎に異なるというべきであるから、一律にいえないことは当然であり、結局は社会通念に従って判断せざるを得ないというべきである。なお、付言するに、藤木意見書(甲第二二号証)には、外壁のクラックは、コンクリートの乾燥収縮によるとの記載があるが、乙第二八号証によれば、平成九年の調査で比較的新しく、錆び汁が流失している外壁部分が認められ、躯体に影響を及ぼしている可能性も否定できない。

したがって、控訴人らの右主張は、採用できない。」

12  八七頁二行目から三行目にかけての「最低限度必要な給排水設備、浴室周りの補修費用」を「専有部分である住戸内の補修については、今後住戸内の劣化、故障により他の専有部分、共用部分に影響を与えないようにするため最低限度必要と判断される給排水設備と浴室改修に伴う範囲の工事に限定した補修費用」と、八八頁五行目の「約五六二万円」を「約五四五万円」と各訂正する。

13  八九頁一二行目末尾の次に次のとおり付加する。

「控訴人らは、この点を費用が過分であるか否かの相対的判断の消極的要素として考慮されるべきであると主張する。控訴人らの右主張は、要するに、これまでに管理費や補修費用をもう少し投じていれば、建物の効用維持回復費用はより低額で済んだはずであり、費用が過分とはいえないことになったはずであるとの主張であると解せられるが、右の事情を考慮に入れる実体法上の根拠は見い出し難いうえ、実際上もこれを考慮に入れるとすると、客観的な建物の状態として補修費用を投ずることがもはや社会通念上不合理であり、明らかに費用の過分性が認められる場合にも、建替えができないという不合理な結果をもたらしかねず、控訴人ら主張の事情は、直ちに法六二条の実体的要件を判断するに当たって考慮すべき事項であるとはいえない。

控訴人らは、竹中工務店の補修費用の見積りに各種の問題点すなわち、①竹中工務店が作成した全面改修工事試算表(乙第一八号証)には、一九九七年から二〇二二年の間の建築関係や設備関係の各項目について工事費用の概算額が列挙されているだけで、右各工事がいかなる内容の工事であり、いかなる仕様に基づいて行われるかという点はもとより、右積算の根拠となる工事数量や工事単価すら示されていないこと、②竹中工務店が作成した新千里桜ヶ丘住宅A三棟改修工事御見積書(乙第二九号証)は、項目欄に示された各工事につき、一応の工事数量や単価が示されているものの、同見積書が現在の各棟建物(A三棟)の劣化を前提とした当面の補修費を積算したという説明にも関わらず、右建物の劣化診断とこれに対する個々の具体的な補修工事の内容を一切明示せず、建物全体に対する工事費用を概算しているなど、右見積りにかかる補修工事の必要性に関する具体的な根拠が示されていないこと、③右各見積書(乙第一八号証、第二九号証)には、建物の共用部分のみならず、専有部分の内装や設備に関する補修工事が含まれており、これが右見積価格の相当部分を占めているが、本来、区分所有建物のうち専有部分に属する設備等は、各区分所有者の責任において維持管理されるべきものであり、費用の過分性要件の要素たる『効用の維持回復費用』に専有部分の補修に要する費用を算入すべきではない等、右各見積書の工事内容の必要性に疑問があるうえ、その工事価格(単価)は、実勢価格と著しく遊離していること等の問題点があると主張する。

そこで、検討するに、右①の点については、乙第四〇号証(乙第一八号証に関する説明書)において、金額は大概算であるとしたうえで、工事内容や仕様について補足説明がなされている。右②の点については、乙第一八号証は、現時点の改修費用と今後三〇年間にわたる補修費用を試算したのに対し、乙第二九号証は、現時点の改修工事のうち更に最低限改修が必要と考えられる費用に限定し、見積もったものであるから、工事内容やその必要性は、乙第一八号証、第四〇号証のほか、乙第四三号証(乙第二九号証に関する説明書)、第二八号証(新千里桜ヶ丘住宅A三棟建物調査報告書)をも参酌すれば、自ずから明らかになるというべきである。

また、右③のうち、専有部分の補修に要する費用を算入すべきではないという点については、原判決が説示する理由(原判決八八頁八行目から八九頁五行目まで)に付言すると、建替えについて法六二条の規定が設けられた趣旨は、区分所有建物の各専有部分が物理的に一体不可分の関係にある一方、それぞれが独立の所有権の対象とされるという特質があることから、区分所有権相互間の適正な調整の方法として、同条に定める実体的要件に該当し、建物を維持することが全体的にみて不合理と認められるような状態に至ったときに、同条に規定する特別の多数決の下に、建替えを認めるというのであるから、過分の費用を要するかどうかは、建物全体について判断すべきであるところ、右の判断において、専有部分の維持回復費用を考慮しないとするのは、制度の趣旨に照らし、合理的な理由がないというべきである。この点につき、控訴人らは、各専有部分の劣化に対する管理、修繕は、当該専有部分の区分所有者が負担すべきものであり、区分所有者全員に負担させるものではないから、『共用部分を含めた建物全体の維持管理費用が区分所有者全体の負担になる』との原判決の判示は誤りであり、また、専有部分の補修費用は個別性が極めて高いと主張するが、法六二条の規定は、費用のみならず比較の対象となる建物の価額についても、共用部分と専有部分を区別しておらず、右制度の趣旨にも鑑みると、本来当該専有部分の区分所有者が負担すべきものである専有部分の費用についても建物の効用の維持回復費用に含めたうえで建物全体の価額その他の事情に照らし、過分かどうかを判断するという趣旨であると解され、原判決の判示は、そのような趣旨のものであると解される。なお、竹中工務店の前記見積り(乙第二九号証)は、専有部分について、最低限必要と判断される給排水設備と浴室改修に伴う範囲の工事に限定しており、右部分は、必ずしも個別性が高いとはいえない。

さらに、控訴人らは、竹中工務店の見積書の工事内容が過剰であり、工事単価が高いことの証拠として、原審において、川口憲一作成の新千里桜ヶ丘住宅検討報告書(甲第七号証)並びに新千里桜ヶ丘住宅工事仕様書及び見積案(甲第一六号証)を提出するところ、右各証拠及び証人川口憲一の原審における供述によれば、A三棟の総工事費は、約二六六二万円(一戸当たり八三万円余)となり、また、当審において、藤木意見書すなわち藤木良明作成の意見書(甲第三五号証)及び新千里桜ヶ丘住宅A三棟補修・改善工事費実勢算定基準(甲第三四号証)の他、それら算定の根拠となる書面(甲第二二ないし第三四号証)等を提出し、右藤木意見書によれば、A三棟の総工事費は、五〇四五万円(一戸当たり一五七万円余)となるところ、控訴人らは、右程度の補修費で足りると主張する。

しかしながら、川口作成の右書面には、給排水設備等の補修工事が含まれていないという問題点がある。もっとも、藤木は、給排水設備工事費用(専有部分を含む。)を一戸当たり四三万円とみており(甲第三四号証、第四〇号証)、これを加えると、川口の見積額は、藤木の前記見積額にかなり接近するうえ、藤木は、基本的に川口と同じ立場、考え方に立って見積りしていると述べていること(甲第四〇号証)に照らすと、川口の意見は、概ね藤木意見書と同様の意見とみることができる。

そこで、次に、藤木意見書について検討するに、藤木意見書には、竹中工務店の見積書に使用された工事数量については、ほぼ妥当な工事数量を根拠にしているとしながらも、工事内容、工事単価については、経年マンションの保全工事の実態からはるかに遊離している旨の記載がある。しかしながら、そもそも法六二条が設けられた趣旨は、建物が建物としての社会的効用を果たすために保持すべき社会通念上要求される一定の性能が、老朽、損傷、一部の滅失その他の事由により損なわれた場合に、その効用を維持し、又は回復するのに要する費用が、建物の価額その他の事情に照らし、相当の範囲内であれば、補修をして建物の使用を継続すべきであるが、その範囲を超えて過分の費用を要する場合には、建替えをして、その敷地の利用価値を回復するのが合理的であるからである。そして、建物にどの程度の効用を期待するかは、相対的な価値判断の問題であるから、建物の効用の維持、回復にどの程度の補修工事をするか、どの程度の費用を投じるかは、物理的な建物の老朽化の程度その他の様々な要素を勘案して判断することになり、この点はまずもって区分所有者が判断すべきことであると解されるから、大多数の区分所有者の判断は、それが不合理といえない限りは、これを尊重せざるを得ないものと解される。もっとも、本件では、建替え決議以前に、各区分所有者に具体的な補修内容、補修費用額等が開示されたことの証拠はないが、平成九年に行われた各区分所有者らに対するアンケート結果をみると、その多くが大規模修繕の必要性を認めており(乙第七〇号証ないし第八三号証)、前記のとおり、大多数が建替え決議に賛成し、本訴において被控訴人らが補修費用の証拠として前記竹中工務店の見積書を提出していることを併せ考慮すると、少なくとも乙第二九号証の見積書程度の工事は必要であると認めているものと解して差し支えないというべきである。そこで、右のような観点から前記竹中工務店の見積書が不合理かどうかについて検討するに、証拠(乙第一八号証、第二九号証及び第四〇号証)によれば、竹中工務店の見積書における補修工事の数量、材質は、大阪府住宅供給公社から入手した設計図をもとにしており、その仕様は、現状と同程度のものを基本としていることが認められ、右考え方は、基本的に是認できる。ところで、竹中工務店の見積書が工事内容において藤木意見書と大きく違うのは、藤木意見書は、基本的に専有部分の補修に要する費用を算入すべきではないという立場に立ったうえで、竹中工務店の見積書に記載されている専有部分の内部工事(見積工事費用の約三三パーセントを占める。)、電気設備屋内改修工事及び専有部分換気改修工事を除外している点である。しかし、専有部分の補修に要する費用を算入すべきではないという見解を採り得ないことは、前述したとおりである。さらに、藤木意見書は、マンションでは、長期修繕計画により、適切な時期に、適切な修繕を計画的に実施する考え方が一般に普及しており、この考え方によれば、例えば、給排水設備の修繕が数年先でよいと仮定すると、その更新費用は除外してよいとするが、法六二条の過分の費用を要するかどうかは、現在必要とされる費用だけでなく、将来必要と見込まれる費用をも考慮して判断すべきであると解されるところ、築後約三〇年を経過して更に数年後に修繕が見込まれるのであれば、現時点で設備を更新する方がよいという判断が必ずしも不合理であるとはいえない。そして、竹中工務店の見積書に記載されている専有部分の内部工事は、給排水設備の補修に伴う関連工事であるところ(乙第四三号証、第一一九号証)、給排水設備が老朽化していることは、前記認定のとおりであるから、必ずしも不必要な工事とはいえないというべきである。また、これら工事内容や次の工事単価の点については、前述したとおり、補修についての考え方の差異が根底にあり、一方が正しく他方は誤っているとは一概にいえない性質のものもあるが、大多数の区分所有者の意見を尊重するという観点からみると、竹中工務店の見積書の内容が不合理と認められない以上、これを尊重すべきものというべきである。

次に、工事単価については、確かに、藤木意見書と竹中工務店の見積書では、大きく異なっている。しかし、藤木意見書の工事単価は、他のマンションの大規模修繕工事契約の工事費単価の平均単価をもとに、単価を算出したものであるが(甲第二九号証)、他のマンションの補修方法、グレード等は、それぞれ異なるはずであるから、単価を単純に比較検討することには疑問がないではなく、小野工建が竹中工務店の見積りと同じ時期に同等の内容で見積もった見積書(甲第六号証)と比較しても、全体的に竹中工務店の見積りの方が高めではあるが、著しく高いとまではいえず、実勢価格と著しく遊離しているとまではいえない。そして、大多数の区分所有者の意見を尊重すべきことは、前述したとおりである。

以上によれば、竹中工務店の見積もった工事費用が藤木意見書や川口の意見書に比べ高いとしても、それが明らかに不合理であるとは認められないから、藤木意見書等をもってしても原判決の認定を左右するものではない。」

14  九一頁七行目の「効用維持管理費用」を「効用維持回復費用」と訂正し、九二頁末行の「用いていること」の次に「(控訴人松下は、乙第四二号証も積算価額の根拠が明らかではないと主張するところ、確かに乙第四二号証からは必ずしも明らかではないが、乙第二六号証及び第九九号証によれば、乙第四二号証の積算価額は、乙第二六号証の竹中工務店の見積書の再建価額とほぼ同じであることからすれば、内訳の記載はないもののその算定については相応の裏付けがあるというべきである。)」を付加する。

15  九三頁三行目の次に改行して次のとおり付加する。

「控訴人らは、乙第四二号証の評価意見書において、建物の再調達原価から減価額を控除するに当たって、いわゆる経済的残存耐用年数を基準として建物の耐用年数を築三五年と仮定し、定額法により価格を算定している点について、①不動産鑑定基準は、経済的残存耐用年数につき、耐用年数に関する実証的調査研究の基礎資料に依拠しているが、その基礎データは、日本建築学会経済委員会等が、東京都中央区において、固定資産台帳に基づく非木造建物の経年別現存棟数と除却棟数の調査を行い、建物群の残存率が五〇パーセントになる時点を建物の寿命として定義し、算定したものであり、そこにはマンションだけでなく、商業ビルや店舗等も含まれており、かつ、右滅失登記の原因が建物の老朽化、効用の減退に限らず、建物の効用増等を目的とした建替えも含まれているのであるから(調査地域が東京都中央区という商業地であり、かつ、調査時期が昭和六二年から平成元年というバブルの昂揚期であることを考慮すると、いまだ耐用年数に達しない建物を、経済効率を重視した建替えなどのために取り毀した事例が多いと推測される。)、実際の耐用年数と遊離しているのはもとより、建物の減価法による現在価値を算定する基準としても極めて信頼性が低いこと、②不動産鑑定評価基準において明確に経済的耐用年数を用いることを指示しているのは、賃貸用不動産又は一般企業用不動産の価格を求めるのに有効な収益還元法による鑑定評価の場合だけであり、現実の鑑定実務においては、現在でも法定耐用年数を基準とする減価方法が一般的に用いられていること等から、右評価意見書の信用性は低い旨主張する。

しかしながら、右①の点については、耐用年数に関する実証的調査研究の基礎資料では、経済的残存耐用年数を住宅施設と商業施設の用途別に分けており(乙第一〇〇号証)、また、その基礎データの信用性が乏しいことを認めるに足りる的確な証拠はない。さらに、減価要因には、物理的要因の他に、機能的要因及び経済的要因がある(乙第一〇〇号証)から、経済的残存耐用年数を基準とすることが不合理であるとはいえない。さらに、右②の点については、不動産鑑定評価基準は、必ずしも収益還元法による鑑定評価の場合だけに経済的耐用年数を用いることを指示しているとはいえず、また、現実の鑑定実務において、法定耐用年数を基準とする減価方法が一般的に用いられているともいえない(甲第五二号証の記載は、乙第一二三号証の記載に照らし、直ちに採用できない。)。

したがって、控訴人らの右主張は、採用できない。」

16  九三頁末行の次に改行して次のとおり付加する。

「なお、仮に、控訴人三宅らが主張するように、建物価額について甲第一八号証と乙第四二号証の中間の価を採用したとしても、右の諸事情に加え、費用については、現在の費用だけではなく将来必要と見込まれる費用をも考慮に入れるのが相当であること等を併せ考慮すると、過分の費用を要するという右の判断は動かないというべきである。

控訴人らは、原判決は、建替えの実体的要件に当たる『老朽』の意義について『法六二条の建物の効用維持回復費用を要する原因が物理的な事由によることを要するというべきであり、参加者らが主張するような、損傷、一部滅失とは異なり、老朽については物理的事由に限定されず、社会経済的な事由をも包含するとの主張は、にわかに採用し難い。』と判示しながら、他方で、『右のような、いわば必然的に生ずる建物としての機能の陳腐化の内容、程度や、双方が主張する広く建替えの相当性といった問題は、建物の価額その他の事情として、費用の過分性判断において考慮すべき事情というべきである。』との前提に立ち、『過分性』要件を判断するに当たっては、当面必要な補修費用と建物の価額の比較だけでなく、前段において自ら否定した建物の社会的効用の減退による建物の利用価値の減少を、『費用の過分性』を判断するうえでの重要な要素として考慮し、建替えの実質的要件が存在すると判示しており、論理矛盾がある、このような原判決の論理を前提とすれば、建替えの実質的要件として定められた『老朽』の概念や『建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき』と定められた厳格な要件は、事実上無意味なものとなり、逆に、建築物と建替え決議時の間に変化した社会的水準の上昇等を、その他の事情として考慮することによって、昭和五八年の区分所有法改正の際に採用されなかった建物の効用を増すための建替え(効用増建替え)を認めるに等しい結果になると主張する。

しかしながら、原判決の説示するとおり、費用の過分性は、当該建物価額その他の事情に照らし、建物の効用維持回復費用が合理的な範囲内にとどまるか否かの相対的な判断であり、法六二条の『その他の事情』とは、建物の利用上の不具合その他の建物の現状、土地の利用に関する四囲の状況等を指すものと解される。右の趣旨に照らせば、建物の効用維持回復費用が合理的な範囲内にとどまるかどうかは、右費用(原判決の説示するとおり改良費用を含むものではない。)と建物価額との比較だけでなく(もとよりこれが大きな比重を占めることはいうまでもない。)、その他の事情として、建物の機能の社会的陳腐化をはじめとする社会情勢、生活情勢の変遷への対応の程度等も考慮して判断するのが相当であると解される。そして、費用の過分性を判断する際に、右事情を考慮に入れることは、法六二条の実体的要件のうちの老朽による建物の効用の減退を判断するときとは、場面を異にしているというべきであるから(建物の効用の物理的減退があった場合にはじめて費用の過分性の要件について判断することになる。)、必ずしも論理矛盾があるとはいえない。また、原判決は、老朽による建物の効用の減退を認定しているのであるから、いわゆる効用増建替えを認めたものではないというべきであり、控訴人らの主張は採用できない。

さらに、控訴人らは、仮に、経時的な建物の社会経済的利用価値の相対的減少を法六二条の『その他の事情』としての判断要素とする立場に立つとしても、我が国の一世帯当たりの平均的家族数(約2.8人)からいえば、各棟建物の平均的床面積(約五七平方メートル)は決して狭隘とはいえず、また、エレベーターに関しても今後の補修工事において高齢者対応型エレベーターを設置するなどの方法により容易に対処できる(現に、建設省は、各棟建物と同型態の中層階段室型住宅に、比較的低額で設置可能な高齢者対応のエレベーターを開発し、今年度より公営住宅を中心に順次設置していく計画である。)と主張する。

しかしながら、各棟建物の平均的床面積は、昨今の住宅事情に照らすと、狭隘であるといわざるを得ず、平成元年から平成二年にかけての本件団地の区分所有者に対する調査でも38.5パーセントの区分所有者が住宅が狭隘であることを訴えている(前記認定)。また、控訴人ら主張のエレベーターを設置するとなると、その分補修費用が上積みされることになるから、やはり費用が過分であるという結論にならざるを得ないことになる。

なお、控訴人らは、仮に、原判決のように、あらゆる事情を『その他の事情』として考慮するのであれば、当然、建替えによって失われる環境等の社会経済的価値も『その他の事情』として考慮しなければならないと主張するが、この点を考慮に入れたとしても、前記認定を左右するものではない。」

17  九四頁三行目の「法六九条」を「法六二条」と訂正する。

18  九六頁五行目の次に改行して次のとおり付加する。

「控訴人らは、控訴人西古及び今里の当審における補充主張の2(団地管理自治会の決議の不存在について)のとおり主張する。

しかしながら、本件は、団地内の敷地全体が団地内の各棟建物の区分所有者全員の共有に属している場合において、団地内の各棟建物の一括建替えをする場合であるところ、前述したとおり、団地内の各棟建物の一括建替えを内容とする建替え決議が各棟建物毎になされており(団地管理自治会の決議をもってこれに代えることができないことは、前記説示のとおりである。)、このような場合には、右各決議には、建替えによる敷地部分及び集会室の利用の変更についての共有者の同意も含まれているものというべきであるから、右各決議により、敷地部分及び集会室の利用変更についての同意の要件は、充足されているものと解するのが相当である。したがって、右に加えて更に団地管理自治会の法一七条等の決議が必要であるとは解されず(なお、控訴人らは、集会室については、本来的には共有者全員の同意が必要であるかのように主張するが、そうすると、結局全員の同意が得られなければ、建替えができないことにもなりかねず、五分の四以上の多数決で建替えの決議ができるとした法六二条の趣旨が没却されることになる。)、控訴人らの右主張は、採用できない。」

19  九六頁一〇行目の次に改行して次のとおり付加する。

「6 その他、控訴人らの原審及び当審における法六二条の適用についての主張、立証を検討しても、当裁判所の認定判断を左右するほどのものはない。」

20  九九頁三行目の「甲第一五号証」を「甲第一八号証」と訂正する。

二  よって、原判決は相当であって、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・見満正治、裁判官・辻本利雄、裁判官・角隆博)

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